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2023年6月18日説教要旨「止めるべき血はどこに」

masuda4422020

ルカによる福音書 8章40~56節 桝田翔希牧師


中学高校生に向けた礼拝説教を考えている時、何か面白い経験はないかと思い巡らし、自分が痔になった時のことを話そうかと思いました。コロナ禍が始まったばかりのころ、痔になったのですが、ほったらかしにしているとどんどん悪化し、座っていることもできず、鎮痛剤をいくら飲んでも効かなくなりました。病院に行くと「痔ろう」と言われ、その場で切開して膿を出すことになりました。炎症がきつく麻酔があまり効きませんでした。その後しばらくは、傷跡から膿と血が出るので、生理用ナプキンを付けるようにと言われました。私の中ではとてつもなく痛い経験で、この痔の原因は不明と言われ気のつけようもなく、未だに再発の恐怖を抱いています。しかし、中高生に向けてのお話で「ふさわしくない」気がして今回は別の話(中耳炎の話)にしました。キリスト教の文脈や礼拝の中では、「ふさわしいかどうか」という判断基準があることに気づかされます。上品な言葉で語られようとするキリスト教に「否定されてきた現実」があり、教義によって「リアリティを再秩序付けする(工藤万里江『クィア神学の挑戦 クィア、フェミニズム、キリスト教』2022年、p.185)」ような、主流を決めるような力がキリスト教にはあるのです。

ルカによる福音書で「ヤイロの娘とイエスの服に触れる女」という箇所では、12年間の長血に悩まされる女性が登場します。現代的に病名を特定できるような記述は少ないですが「痔からの出血の可能性が高い(川越厚他『人間イエスをめぐって』1998年、p.86)」と考えられたり、他には生理に関連して「ホルモン異常による機能的な出血、あるいは子宮筋腫分娩のような(同上)」疾患、「月経過多」が考えられるそうです。また、当時にあってこの女性は、レビ記15章25節の記述のように、宗教的に不浄と見なされていたことも想像できます。この女性は「身体的かつ社会的な苦しみ(工藤万里江、2022年、p.193)」という二重の苦しみを背負っていました。この女性の癒しによる解放の喜びは、大きなものであったことでしょう。しかし現代にこのテキストを読む私たちは、注意して読まなくてはいけない箇所でもあります。「『止めるべきもの』とする規範こそ問うべき(工藤万里江、2022年、p.195)」なのです。

キリスト教の歴史の大部分で、「長血」ということは律法で規制されるか、イエスが癒す以外にほとんど語られてきませんでした。「ふさわしくない」話題であったのです。現代の教会という組織を振り返ってみても、語られてこなかった、不可視化されたものは山のようにあるのではないでしょうか。しかし、私たちは確かにこの身体をもって生きています。時に血を流しながら、それでも確かに生きています。しかし、時としてその痛みは語るにふさわしくないとして無視されていきます。イエスの癒しの業は、私たちの社会のどこに血が流れているのかということを問いかけているのではないでしょうか。そして今回、勇気を出して、自分の痔の話をした次第です。

 
 
 

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1 Comment


satoko kanemoto
Jun 17, 2023

先生大変つらい思いをされておられたのですね。麻酔が効かない炎症、どれだけの痛みか計り知れません。大変なストレスを感じながらも赴任してきて下さり、お一人で苦しみと向き合っていらしたと思うと申し訳ない気持ちです。急な症状が出た時は危ないので夜間でもご連絡ください。

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